高次脳機能障害について


1.高次脳機能障害とは?

交通事故などの外的要因によって頭部外傷を受け,一定期間の意識障害を経て覚醒した後に,様々な脳機能の障害が発覚することあります。

例として以下のようなものが挙げられます。これらの症状は一例ですが,頭部外傷後一定期間意識障害があった方に現れた場合には,高次脳機能障害の可能性があります。

(1) 記憶障害

常識的な知識はかなり保たれているが,社会生活を保つうえでの知能が備わっていないような印象を受けたり,新たなことを覚えたりすることができない

(2) 注意障害

一つのことに集中したりできない,他のことを頼まれるとパニックになる,一度に二つのことを並行して進めることができない

(3) 遂行機能障害

予め立てた計画に従って,遂行することができない。

同じ失敗を繰り返すが,なぜ失敗したのかについて分析,反省することができない

(4) 行動,情緒障害

事故前に比べて怒りっぽくなり,一度怒ったら制御が難しくなった。
一つのことに固執するようになった。(例として,携帯電話を片時も離さず,特に意味もなく携帯画面を見つめ続けるなど)
自分から何かを始めようという意欲がなくなった
感情の起伏がなくなり,周囲に無関心な印象を受けるようになった。
欲しいものを我慢することができずに散財するようになった。
子供のような態度を示すようになった。

場にそぐわない発言が多くなった。

(5) その他,失語症など

 

2.高次脳機能障害の問題点は?

高次脳機能障害を抱えた方の中には,麻痺も少なく,外見上,全く障害がないように見える方がおられます。

一定程度なら,社会生活が自立して行える方も多く,一人で外出して買い物することもできたりもします。

そのため,見た目には完全に治癒したものとみられ,誤解をうけがちですが,実は,脳に大きな障害を抱えています。

しかし,脳の障害を認知することは,周囲の人間も自分自身でさえも難しく,一番身近に接している家族の方にしか,その変化に気づかないこともあります。

社会復帰しても,職場の人間とのコミュニケーションがうまくとれなかったり,与えられた仕事がうまくこなせなくて退職を余儀なくされることもあります。

また,友人関係でも,「性格が変わった。怒りっぽくなった。」などと誤解を受けることがあります。 時には,家族内の関係ですら,うまくいかないこともあります。

高次脳機能障害について,一見してそれが障害に基づくものなのか,本人のもともとの性格,能力の問題なのかを見極めることが難しく,周囲の理解を得ることが困難なところが問題となります。

3.損害賠償する際の問題点

保険会社が提示する示談の金額と実際の裁判で認定される金額とが大きく異なることもありますので,安易に示談を交わさないというのは,交通事故共通の注意点です。その他にも,高次脳機能障害の患者さんが損害賠償の裁判等をするうえでの特有の問題点があります。

以下は,その一例です。

(1) 自賠責保険の後遺症等級認定結果に満足がいかない

患者さんの実際の日常生活がどのようになされていて,どのようなところに障害の影響があるのかについて,ご家族,医師の協力のもと,弁護士が裁判において主張,又は自賠責保険による後遺症の等級結果に対する異議申立てをする必要があります。

(2) 将来の介護の問題

裁判の現状で,後遺障害等級3級以下の認定となった方に対する将来の介護費用が認定されないことがあります。

そもそも,等級認定の基準として,第1級と第2級については,認定の際に介護の要否が一つの判断基準とされているため,第3級以下が介護の不要な等級との誤解に起因すると思います。

しかし,高次脳機能障害の患者さんの中には,日常生活を行ううえで,部分的な介護,介助が現に必要とする例も多いです。

例えば,服を着替える際や入浴の際の介助,注意散漫のために火の始末を忘れたりするので,見守りが必要だったりする場合も多いです。

このような部分的な介護又は介助・補助が日常的に多く必要とされるにもかかわらず,実際の裁判では,将来にわたる介護費用の必要性を認めてくれない例も多々あります。

現実的には,家族の方がこのような部分的な介護等を行ってますが,その負担は大きく,また,万一ご家族不幸があった場合や,何らかの事情で一人暮らしを余儀なくされた場合に備えて,本人及びご家族の不安を解消し,負担を軽減する必要があります。

そのため,後遺障害の等級が第3級以下に認定された場合でも,将来にわたる介護費用の請求をしなければならない場合があります。

(3) 将来のリハビリ費用や治療費の問題

交通事故の損害賠償では,症状固定後の治療費,リハビリ費用やカウンセリング費用などについて認められないことが多いのが現状です。

しかし,高次脳機能障害の患者の中には,症状固定後も,現状維持又は症状の改善のために,一定のリハビリやカウンセリングなどを続ける必要があるケースもあります。

また,医学的な証明がまだ十分にされていない先端医療のような施術を試みるケースもあります。

特に,成長期のお子さんの場合であれば,ご家族の心理としては,少しでも回復の可能性にかけて,自費であってもリハビリなどを続けたいと思われる心情も理解できます。

医学的に未解明な領域も多い脳の障害ですので,医学的に証明されてはいないものの,一定の改善例などの報告があるものに関しては,症状固定後の治療費,リハビリ費用,カウンセリング費用について,裁判において主張する必要もあると思います。

4.まとめ

高次脳機能障害を抱えておられる方の損害賠償請求には,このような特異な問題点が数多く存在し,そのためには,ご家族と医師と弁護士がそれぞれ協力しながら,一緒に問題解決にあたる必要があります。

ご家族の方も含め,お悩みの場合には,まずは一度お気軽にご相談ください。