有価証券届出書への虚偽記載


第1 虚偽記載等のある有価証券届出書の提出者の賠償責任

有価証券届出書(以下、「届出書」といいます。)に虚偽記載等があった場合、 法は、
①株主が募集又は売出しによって株式を取得したこと
②株主が虚偽記載等を知らなかったこと
を要件として、報告書の提出者への損害賠償請求を認めています。

第2 損害額の法定

届出書への虚偽記載等があった場合、募集又は売出しに応じて株式を取得した株主に生じた損額額は法定されています。
これは報告書への虚偽記載等の場合に比べ、取得時期等の要件を不要としている点で、株主に有利になっていると言えます。

第3 法定損害額

法定損害額は、株主が株式の取得について支払った額から、
ア)損害賠償請求時まで株主が当該株式を継続保有していた場合においては、損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時における処分推定価額)を控除した額、
イ)損害賠償請求時までに株主が当該株式を処分した場合においては、その処分価額を控除した額 となっています。

第4 相手方の立証による減額

報告書の場合と同様、法は公平の観点から、請求を受けた者が他の事情による損害額を証明することを要件として、損害額の減額を認めています。
もっとも、報告書の場合とは異なり、裁判所の裁量による減額は認められていません。
この点でも、報告書に虚偽記載等があった場合と比べ、株主に有利になっていると言えます。

第5 請求の相手方

以上のように株主は、届出書の提出者に対し損害賠償を請求できますが、その他に、提出会社の役員、監査証明をした公認会計士若しくは監査法人、又は元引受契約を締結した金融機関に対しても、損害賠償を請求できます。
報告書への虚偽記載等の場合と比較すると、元引受契約を締結した金融機関が対象に加わっている点で株主に有利と言えます。
もっとも、相手方が誰かによって、要件及び損害額の算定方法が若干変わってくる点は、報告書への虚偽記載等の場合と同様です。