外資系企業をリストラされた!そんな時は


相談から解決までの一例

外資系金融企業のA社に勤務していた甲さんからご相談のあったケース

1.ご相談内容

9月某日の朝、直属の上司である部長から、荷物をまとめて、職場のある部屋とは別の部屋に来るよう指示された。部屋に行くと、部長から、今年末いっぱいで会社を辞めてほしいと言われ、退職届にサインするよう求められた。今月中にサインしてくれるなら、退職パッケージとして、A社内の規定に従って支給される退職金に加えて、特別退職金として基本給の2か月分を出すという条件を提示された。

突然のことで訳が分からず、何故自分が辞めなければならないのか問うと、部長からは「不況のため会社の売上げが下がり、人件費の圧縮が喫緊の課題となっている。会社の上層部が、甲君の年初来の成績を評価した上で、辞めてもらうことを決めた。」とのことだった。

それでも納得がいかなかったので、退職届のサインを拒み、辞めるつもりはないと答えると、部長からは「もう決まったことだ。今後、甲君にしてもらう仕事はない、会社には来なくていい。」と言われ、会社の出入口の鍵や、コーポレートクレジットカードなども取り上げられてしまった。

その日はそのまま帰り、翌日は会社の入口まで行ったが、社屋内に入れてもらえなかった。自分で考えても、これからどうすればよいか分からず、法律事務所に相談に行った。

2.甲さんとA社との関係は法的にはどうなるのか

ご相談のケースで、部長が甲さんに退職届へのサインを求めていますが、これは任意の退職(雇用契約の合意解約、または辞職)を促すもので、この場合、甲さんには退職届にサインする義務はありません。

甲さんは、会社に来なくていいと言われ、会社で仕事をすることができなくなりましたが、この場合、A社が会社側の都合で甲さんの就労を不可能にしたものと評価できると思われ、甲さんは就労していなくてもA社に対し給与を請求できると思われます。

一方、A社は、甲さんに早く辞めてもらいたいと考えていますが、甲さんが任意の退職に応じない場合、解雇により、甲さんとの雇用契約を一方的に終了させようとすることが考えられます。

ただし、会社が従業員を解雇するには客観的に合理的な理由が必要となり、場合によっては裁判所により、解雇権の濫用として解雇が無効と判断されることがあります。ご相談のケースでは、部長の言葉からすると、A社は経営不振のためにリストラの一環としての人員削減を行おうとしていると思われるところ、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇は整理解雇とも言われます。整理解雇の有効性の判断にあたっては、使用者(会社)の解雇回避努力、被解雇者選定の妥当性などに関する事情がポイントとなりますが、実際の裁判で、これらの事情をもとに会社の整理解雇が無効と判断されることも珍しくありません。

3.当事務所からのご提案

甲さんのご希望は、今までどおりに勤務できるなら会社に残りたいが、このような事態になったため、条件次第では退職することとなっても構わない、ただ、現在提示されている上記の退職パッケージでは応じられないということでした。
そこで、①退職の条件がA社から現在提示されているより有利な内容となるよう、当事務所の弁護士が甲さんを代理してA社と交渉を行い、②A社が解雇を通知してきたときでもその無効を主張し、③交渉期間中の給与を請求するという方針を当事務所からご提案したところ、甲さんから、上記方針でのA社に対する交渉・請求をご依頼いただきました。

4 ご依頼後、当事務所弁護士の交渉による解決までの経過

甲さんからのご依頼後、当事務所の弁護士からA社に対し、上記の9月某日に提示された条件での退職には応じられないことを通知し、甲さんがA社に在職している間は給与を支払うよう求めました。その後、弁護士がA社との交渉を継続したところ、特別退職金の提示額が当初よりも増加され、甲さんとしても納得できる金額であったため、甲さんはA社を退職し、このケースは解決に至りました。

仮に、交渉の過程でA社から解雇通知がされた場合、解雇の無効を主張して、雇用契約上の権利の確認または賃金支払いを求めて、労働審判、仮処分、訴訟などの手続を裁判所に申し立てることが考えられます。

5 会社から退職を求められた場合、まずは専門家に相談することをお勧めします

外資系企業では、甲さんのケースのように、従業員が会社から、ある日突然に退職を求められることも珍しくないようです。そんなことがあったとき、その場では頭が真っ白になり、冷静に考えられなくなるのも無理はありません。 しかし、会社に言われるままに、または、十分な交渉もせずに、退職に応じてしまうのは得策ではありません。確かな法的知識に基づいて交渉すれば、結果的に退職することとなった場合でも、より有利な条件を引き出せる可能性があります。

甲さんのケースのように、会社から退職を求められた場合には、安易に退職に応ずるのではなく、弁護士等の専門家にご相談なさることをお勧めします。