1.遷延性意識障害(いわゆる植物状態)とは?
遷延性意識障害(いわゆる植物状態)とは,簡単にいえば,
- 自力で移動が出来ない
- 自力で食べ物や飲み物をとることができない
- 排泄が失禁状態にある
- 声を出しても,意味のある言葉を言えない
- 簡単な命令には応じることはできるが,ほとんど意思疎通ができない
- 眼球は動くものの,それが何かを認識できない
以上のような状態が,治療の甲斐なく3ヵ月以上続くような場合をいいます。
2.ご家族の精神的,肉体的苦痛について
交通事故などによって遷延性意識障害となった患者さんは,病院側の事情で長期間の入院が出来ずに退院を余儀なくされ,最終的には自宅療養となり,ご家族において介護されるケースも多いと思います。
痰の吸引のために,夜は家族の方が寝ずに交替で番をしなければならないこともあります。
また,万一,夜中に地震や火事などの災害にあったら逃げられないのではないか,自分が目を覚ましたら呼吸がとまっているのではないかと心配で,眠れない夜を過ごされるご家族も多いようです。
自分で体位変換ができないため,褥瘡【じょくそう】(床ずれ)予防として,寝ている患者さんの体位を定期的に変換してあげなければならず,体位変換の際にも、患者さんに意識障害があるため,意識的に体重移動などできないために,とても力がいります。
以上は一例ですが,ご家族の肉体的,精神的苦痛は,実際に体験した人にしかわからないほど甚大です。
3.裁判を行う場合の問題点
加害者に対して損害賠償請求の裁判等をする場合には,遷延性意識障害の特殊性に基づいて,様々な問題点があります。
以下は,一例です。
(1) 自宅の改造費用等
体温調節機能が衰えているために,室温を一定に保つ必要があり,通常の空調設備では対応できないこともあります。
そのため,通常の空調設備と併用して床暖房が必要なこともあります。
また,外出の際は当然ですが,室内の移動でも改造した車椅子などでないと移動できないため,自宅自体をバリアフリーにしたり,家屋自体を改造する必要もでてきます。
(2) 光熱費の増加
体温調節機能の障害のために,冷暖房などの光熱費が通常の家族よりも多くかかったり,汗をよくかくために,洗濯が増えて水道代が余分にかかったりすることもあります。
(3) 平均余命について
若くして遷延性意識障害になった患者さんの余命が,健常者の平均余命よりも短いと裁判で主張されることがあります。 そのため,裁判上の請求額を減らすべきとの主張が加害者側からなされることもありますが,そのような主張は認められるべきではなく,反論が必要です。
(4) 近親者の付添費用
事故直後の急性期において,完全看護の病院であっても,家族の方が付添をして手を握ったり,声掛けなどをすることがあります。
医学的証明が十分ではないですが,急性期における近親者の声掛けなどが,患者の病状に変化を与えることは多数報告されています。
実際に,事故直後の病態から意識の回復は難しいと医師もあきらめかけた事案で,家族の方の必死の看護をした結果,意識が一定程度回復した例もあります。
そのため,完全看護制の病院であっても,近親者の付添費用について認める必要も出て来ます。
(5) 将来の介護費用
遷延性意識障害の患者さんは,終生介護が必要ですが,近親者が実際介護をしている場合に,職業介護人の手当分の賠償が認められないケースもあります。
そのような場合でも,近親者と職業介護人を併用して賠償請求したり,近親者が介護できなくなる年齢以降,職業介護人の手当を満額賠償請求したり,変則的な請求も時には必要となります。
(6) 先進医療
未解明の脳領域の障害のために,保険適用外の先進医療などを治療を試みられるご家族も多数おられます。
その一例として,体内に装置を植込み,脊髄に微弱な電気刺激を行うという脊髄刺激療法と呼ばれるものがあり,医学的証明は十分ではないものの,それによって改善した旨の症例も報告されています。
実際に,遷延性意識障害の患者さんがこの療法を試み,裁判において,かかる療法に要した費用を請求して,賠償が認められたケースもあります。
(7) 後見制度
遷延性意識障害の患者さんは,意識障害があるために,裁判等の請求を行う際には,成年後見開始の申し立てをしなければならず,法的サポートが必要となる場面も多いです。
4.まとめ
不幸にも,交通事故等によって,遷延性意識障害の障害に見舞われた場合には,ご家族において,回復を願って先進医療などにも積極的にチャレンジしようと考えたり,介護について悩んだりと,悩みはつきないことと存じます。
このような悩みについて,当事務所の弁護士が,親身になってご相談にのりますので,お気軽に一度ご相談ください。