専門外の「専門家」による解説の危うさ


 弁護士の最所です。

 PRESIDENT Online に 「本当は恐ろしい”性格の不一致”離婚の代償」という記事が載っていました。

 内容については、行政書士の方が書かれているようです。

 この記事については、二つの点で、問題があると考えています。

 まず、そもそも、「支払義務の存否」と言った、紛争性のある問題について、専門業務外であるはずの行政書士が「専門家」として回答することが妥当かという問題と、ここで掲載されている内容が正しいかという点です。

 弁護士法72条は、弁護士以外の者が報酬を得る目的で、「法律事件」(紛争性のある事件)を業として行うことを禁じています。

 業として行うことができない以上、行政書士は、「支払義務の存否」に関する問題については「専門家」ではありません。

 この記事は、「専門家」でない行政書士の考えを、あたかも専門家による回答であるかのような印象を読者に与えさせてしまう点に、問題があると思います。

 もちろん、内容が間違っていなければよいのではないか、表現の自由があるとの意見はあるでしょう。

 しかしながら、私が問題視しているのは、意見を述べること自体ではなく、あくまでも、読者に「専門家」による回答であるとの印象を与える点を問題視しています。

 かつて、「WELQ」に誤った医療情報が掲載されていたことが問題とされました。

 これは、専門家である医師による適切な監修が十分になされないままに、誤った医療情報がネット上に氾濫してしまった為です。

 誤った医療情報を見た人は、それが誤っていることに気づかなければ、適切な時期に適切な医師による診療を受ける機会を失ってしまいます。

 だからこそ、医療情報には、正確性(専門家による適切な監修等)が必要とされているのです。

 これは、法律問題についても同様です。適切な時期に、適切な対応をしないと、本来保護されるべき権利の行使ができなくなってしまうことにもなりかねません。

 専門家による適切な助言を得る機会を失うことがないよう、少なくとも、「専門家」による意見かどうかを、誤解させるような表現は、厳に慎むべきであると考えています。

 そこで、記事に書かれた内容について、検討してみます。

 費目については、「前編」に書かれているとありましたので、その内容を確認すると、

  (1)妻と長女が住むマンションの住宅ローンとして月10万円(完済まで20年)      (2)生活費として月10万円(妻が生きている間ずっと)

  (3)養育費として月6万円(長女が社会人になるまで)

 とあります。(1)について、そもそも財産分与として、マンションを妻に渡したことが前提となっているのか、その点が不明です。

 仮に、マンションの名義変更をすることなく、そのまま夫名義であったとすると、それは、少なくとも対第三者的には夫の財産ということになりますので、自分名義の借金を支払い続けるのはある種当然だと思います。一般的な感覚としては、住宅ローンが残っているマンションの名義を変更した場合、期限の利益を喪失する条項が入っていることがあるので、住宅ローンがそのままであれば、マンション自体は夫名義のままなのではないかと思います。

 そうであれば、自らの所有するマンションについての自らの借金を返済するということになりますので、それほど、不利な印象はありません。

 マンションが財産分与の対象とされなかったとした場合、妻との利用関係は、使用貸借ということになるかと思います。その場合、「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」には返還を求めることができますので(民法597条2項)、永久に返ってこないということにはならないでしょう。

 また、そもそも、婚姻関係が終了した者に対して扶養義務はありませんので、「生活費」としての支払いという趣旨が不明です。

 この場合、(2)と(3)の合計金額16万円自体が、養育費の合意であったと判断される可能性もあります。

 その場合、事後的に養育費減額調停・審判を求めることができますので、全体について、減額がなされることも十分にあり得ますし、少なくとも、(3)の養育費については、成人した以降の分については否定される可能性は十分にあります。

 この行政書士の方は、「妻の離婚条件を受け入れようとしている淳二さんをとどめるべきかどうか。私は自重しました。」と仰っていますが、この状況であれば、弁護士に相談されることをお勧め頂きたいと思います。

 離婚に関して、相手方の同意がない限り、原則として離婚はできない、これはその通りです。

 離婚は、結婚の裏返しですから、相手方が承諾しないと結婚できないのと同様に相手方が離婚に同意しない限り離婚はできません。

 もっとも、一定の離婚原因がある場合(民法770条1項各号)には、裁判上の離婚が認められる場合もあります。

 一般的には、性格の不一致は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかという観点から判断されることになりますが、裁判所は、様々な事情を組み込んで判断しますので、一概には言えません。そもそも、裁判を起こす前には、必ず調停を経る必要がありますので、調停の中で相手方と離婚についての話し合いを行うこともできますし、裁判の中でも和解の話をすることは可能です。

 この記事の中で、「「離婚しなさい」と裁判所が判決を下すためには、以下の3つの要件を満たす必要があります」と書かれている「要件」は、いわゆる有責配偶者からの離婚請求の場合の基準であって、この基準を満たさない限り、裁判上の離婚請求が認められないというものでもありません。

 裁判においては、双方から提出されたあらゆる事情を考慮して判断されますので、むしろ、DVや不貞が存在しないケースでは、どのような結論になるかは、予想しづらいとも言えます。

 私の感覚としては、親権者を巡る争いが正面からなされているケースや、有責配偶者からの離婚請求等の場合でなければ、判決まで行くというケースは余りないように感じています。

 離婚を巡って調停や裁判を行うことは当事者にとっては非常にストレスです。その意味で、当初は、頑なに離婚に応じないとしていた相手方が、離婚に向けた話し合いに応じてくることも現実にはあります。

 離婚を巡る調停や裁判は、それぞれに個別の事情がありますので、○○だから△△となるとは、断定はできません。

 その意味では、現実の調停や裁判について、業として行うことができない行政書士の方の見解を、「専門家」による見解であるかのように掲載している「PRESIDENT Online」の対応には、問題があるのではないかと言わざるを得ません。