契約書の作成


 弁護士は日々様々な文書を作成します。裁判所に提出する訴状や答弁書等、捜査機関に提出する意見書等、相手方に送る通知書、クライアントにお送りする受任契約書や経過報告書等の弁護士としての職印を押して作成する文書だけでなく、クライアントや相手方に送るFAXやメール等も文書に含めると1日に何通も文書を作成していることになります。

 これらの文書作成業務の中に、契約書ドラフトの作成があります。  契約書の作成は、以下の通り、非常に神経を使う作業である反面、弁護士にとってやりがいのある業務であると思っています。  まず、弁護士は契約の当事者ではありませんので、契約締結に至るまでの当事者間のやりとりを把握していません(もちろん、契約書作成の前段階の契約相手方との交渉から関与させていただいている場合もあります。)。原則は、契約書作成を依頼されるクライアントのお話のみによって、契約締結に至る経緯を把握することとなります。そして、クライアントのお話から、クライアントが当該契約によって何を実現したいのかを考えます。  次に、クライアントの意図する契約内容の中に、公序良俗(民法90条)、各種強行法規(※)、消費者契約法、不正競争防止法、独禁法等に違反するものはないかを検討します。これらの規定に違反するとその契約内容が無効となるからです。  それを踏まえ、クライアントの現在の意図を実現するため、だけでなく、将来起こりうるさまざまな契約上のトラブルを想定し、トラブルが起こった場合にクライアントが有利に切り抜けるために必要な条文はどんなものか、条文の表現をどうすべきか、完成した条文の意味は一義的か等を吟味します。もっとも、契約は相手ありきのものなので、相手の利益を全く無視したものであると、相手方から契約書に署名(又は記名)押印をもらえません。クライアントの利益を最大限尊重しつつ、相手方の利益にも目を向けなければなりません。

 以上の思考過程を経ながら、契約書のドラフトを作成していくこととなります。その際、市販されている契約書集、事務所で過去に作成した契約書を参考にしますが、世の中に全く同じ事案は存在しませんので、これらの雛形をそのまま使うことはできません。依頼をいただいた一つ一つの事案にマッチした契約書となるよう弁護士は知恵を絞ります。  契約関係でトラブルが生じた場合、有効な契約書が存在すること、契約内容が契約書により明確なことが勝敗を決定的に左右します。契約関係でトラブルが生じると、相手方とのかみ合わないやり取りで非常に精神的な労力が大きいですし、訴訟ともなると、出廷の手間又は弁護士費用が掛かります。さらに、訴訟で敗訴してしまうと、金銭の支払いなど経済的に多大な負担を強いられます。そのような将来のトラブルを防ぐためにも法律の専門家に契約書のドラフトを作成を依頼したり、ご自身で作成した契約書に不備がないかのチェックを受けておくと安心です。 ※強行法規=当事者が法律の規定と異なる特約をしても、特約が無効となるような規定 弁護士 池田雄一郎