名ばかり管理職の問題をご存知でしょうか。 労働者は、残業代をもらえる権利を保障されていますが(労働基準法37条1項)、「監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」といいます。)に関しては、残業代をもらえる権利は保障されていません(同法41条2号)。 実質上、業務の管理、監督をする権限がないにもかかわらず、通常はその権限が伴う肩書(店長など)を与えられているため(名実が伴わないため、名ばかり管理職と呼ばれる)、他の従業員と変わらない仕事をしていても、管理監督者であるとして残業代をもらえないというケースが問題となっています。以上が名ばかり管理職の問題の大枠になります。 この問題に関して、裁判所は、管理監督者に当たるか否かは、 ① 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか ② その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か ③ 給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がなされているか否か などの諸点から判断すべきであるとしています(東京地裁平成20年1月28日)。 これらの判断基準を下敷きにして、裁判所は、管理監督者に当たらないと主張する原告(店長のポストが与えられていました)の勤務条件等を精査しました。そして、概ね以下の理由(抽象化した上、要約しています)から、原告は管理監督者に当たらないと判断しました。 ① 将来、重要なポストに就く社員を採用する権限がない ② 会社決定の営業時間に事実上従うことを余儀なくされる ③ 独自メニューの開発、原材料の仕入れ先の選定及び商品価格の設定の権限がない ④ 会社全体としての経営方針などの決定に関与していない ⑤ 代替従業員がいないときは自らが勤務しなければならない等労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。 ⑥ 原告の勤務実態からすると、原告の賃金は管理監督者に対する待遇としては十分であるとはいえない。
上記によると裁判所は、管理監督者といえるためには、労務管理、労働時間等に広い決定権があることや、労働基準法の適用を排除しても足りる待遇がなされていること等を求めているといえます。一部管理権を与えている、若干の優遇措置を取っている程度の者に対して、管理監督者として残業代支払等をしないことに大きな歯止めをかける判断であると評価できると思います。なお、ここでは内容の紹介を割愛させていただきますが、平成20年9月9日に厚生労働省労働基準局から、管理監督者に該当するかの判断要素等を記載した行政通達(基発第0909001号)が出されています。 管理監督者の名を借りて、労働時間超過、残業代なしで過重な労働を強いられ、鬱病に罹患したり、ひどいケースでは過労死をしてしまうケースが後を絶たないと言われています。労働者サイドの方々は、会社からの扱いに疑問を感じた場合には、取り返しのつかないことになる前に、労働基準監督署や弁護士等にご相談されることをお勧めいたします。 また、経営者サイドの方々は、管理監督者に当たらないにもかかわらず、残業代を支払わない場合には、後日多額の残業代を利息付きで一括請求されてしまう可能性があります。管理監督者に該当するか否かは弁護士等の専門家の意見を聞いた上で、慎重に判断することをお勧めいたします。 弁護士 池田雄一郎