相続放棄②


さて、以前記載した相続放棄の続編です。

相続放棄できる期間(熟慮期間)は、自分が法定相続人となったことを知った時から3か月であることは前回記載したとおりです。

但し、最高裁は「被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況から見て相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があり、相続人が被相続人には相続財産が全く存在しないと信じたことについて相当の理由がある場合、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算する」

と述べてます(最判昭和59年4月27日)。

同判例では、被相続人が連帯保証債務を負担していたという事案で、被相続人と相続人間の交渉は約10年間全く途絶えていたこと、被相続人が入院後に何度か接触を持ったが資産や負債について説明を受けたことがないこと、被相続人には積極財産が全く存在せず葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられた事実を認定し、連帯保証債務の存在を知った時から熟慮期間を起算することを認めています。

この判例のポイントは、「被相続人にマイナスの財産が全く存在しないと信じたこと」を要件としているのではなく、マイナス財産及びプラス財産双方を含めた「相続財産が全く存在しないと信じたこと」を要件としている点です。

相続人と被相続人が全くコンタクトを取らず、お互いどのような生活を送っているか把握していないということは珍しくありません。ただ、プラス財産が全く存在しないケースはあまり多くないと思われ、日本では被相続人のプラス財産を葬儀費用に充てることもよく行われます。また、プラス財産が全くないならば、裏返しとしてマイナス財産があることが疑われます。

やはり、自分が相続人になったことを知った時から、被相続人の相続財産の全容を把握するべく調査をしておくことが重要です。

なお、相続放棄をした場合、その相続人は最初から相続人でなかったこととなり、他に共同相続人がいる場合には、その相続人が法定相続する負債の額が増えてしまいます。相続放棄をする際にはこの点も念頭に置いた上で、手続を検討することをお勧めします。