弁護士の最所です。
TBSは、この問題について、当事者意識を持つべきです。
毎日新聞では、「TBSの番組に出演しているジャニーズ事務所所属タレントの起用について、佐々木社長は「現在契約しているタレントの出演は変わらない」と強調。その理由を、日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に基づくとして、「ガイドラインでは、取引先に人権侵害があった場合、契約を解除するのは最後の手段としている。今は、取引先との関係を維持しながら影響力を行使し、改善を求める段階だ」と話した。」と報道されています。
そこで、『日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」』の内容を確認してみました。
確かに、22頁には、「取引停止は、最後の手段として検討され、適切と考えられる場合に限って実施されるべきである」と記載されています。
しかし、ガイドラインの「4.2.1 検討すべき措置の種類 」(20頁)では、類型として、①「4.2.1.1 自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合 」と②「4.2.1.2 自社の事業等が人権の負の影響に直接関連している場合 」とを分けて記載しています。
そして、①「自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合」には、「企業は、引き起こし又は助長している人権への負の影響について、例えば以下のような方法で、負の影響を防止・軽減するための措置をとるべきである。 (a) 負の影響を引き起こしたり助長したりする活動を確実に停止するとともに(例:有害物質を使用しないために製品設計を変更)、将来同様の負の影響を引き起こしたり助長したりする活動を防止する。 」と記載されています。
要約すると、自社の事業が人権侵害を助長している場合には、 「負の影響を引き起こしたり助長したりする活動を確実に停止」すべきであると記載されている訳です。
それにも関わらず、なぜ、取引を停止しないのか。それは、TBSが、自らの事業が人権侵害を助長していたという事実はない、単に関連していただけであると、考えているからです。
今回問題となっている「負の影響」というのは、「ジャニー氏の行為を隠蔽してきた」ことになります。要するに、TBSは、自らが、「ジャニー氏の行為を隠蔽してきた」ことを「助長した」とは考えていない、一言で言ってしまえば、TBSには、全く当事者意識がなく、単に取引先が問題を起こしてしまった、そういう認識なのです。
この点について、ガイドラインのQ&A「13」の部分を引用します。
Q13 自社の事業・製品・サービスが負の影響と直接関連しているのみの場合には、企業には救済を実施する責任はないとされているが(本ガイドライン5)、そのような場合と、自社が負の影響を助長している場合とはどのように区別して判断したらよいか。
A13 「助長」、「直接関連」のどちらに該当するかは、(1)他の企業に負の影響を引き起こさせた程度、又は、他の企業が負の影響を引き起こすことを促進し若しくは動機付けた程度(負の影響への寄与の大小)、(2)負の影響又はその可能性について知り得たか、知るべきであったかどうかの程度(予見可能性の度合い)、(3)負の影響を軽減し又はその発生リスクを減少させたかどうかの度合い、などの要素を総合的に考慮して判断する。 もっとも、実際には、「助長」又は「直接関連」のいずれのケースに該当するかの区別が困難な場合も多く、そのような場合には、「直接関連」が「助長」に発展することなどもあるため、人権尊重責任の趣旨が人権への負の影響の防止・軽減にあることを踏まえ、「助長」として捉え、負の影響を防止・軽減するとともに、救済を提供することが望ましい。 なお、企業と人権への負の影響の関係性は、変わり得るものであり、「直接関連」が「助長」に発展する可能性があることにも留意が必要である。
ガイドラインに記載されている3つの判断要素
①負の影響への寄与の大小 ②予見可能性の度合い ③負の影響を軽減し又はその発生リスクを減少させたかどうかの度合い、
を、特別チームの調査報告書の内容に当てはめて見た場合、
「報道機関としてのマスメディアとしては極めて不自然な対応をしてきた」「ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなった」(特別チームの報告書53頁)
どう考えても、「自社が人権への負の影響を」「助長している場合」に該当するとしか思えません。