弁護士の最所です。
5月15日に配信された産経新聞の主張です。
「明らかな違法行為に対する対応なのに、通信の秘密や検閲禁止を定めた憲法に抵触する、といった批判が多い。」「日本でも法的根拠を明確にすべきだが、的外れの批判があるため進まない。児童ポルノへの接続遮断の措置も、特例として行われている。泥棒を拘束することについて「移動の自由」を妨げるとでもいうのだろうか。」
とあります。
産経新聞社は、今回の件の問題を適切に理解されているのでしょうか。
そもそも、今回、問題視しているのは、違法行為を行っている者の通信の秘密ではありません。
違法行為とは全く無関係の第三者の通信の秘密が侵害される点を、問題視しているのです。
だからこそ、全く無関係の第三者の通信の秘密が害されることが正当化される理由として、「緊急避難」(刑法37条)の問題として、政府は議論しようとしていた訳ですから。
そもそも、「泥棒を拘束することについて「移動の自由」を妨げるとでもいうのだろうか。」という議論は行っていません。
あえて、同じような話をするとすれば、
泥棒を拘束するに際して、たまたま通りかかった人の車をとめて、
「今、泥棒を追っている。この車は警察が直ちに使用するので、降りてくれ。」として、勝手に無関係の第三者の車を使用できるのかというレベルの話です。
このような行為を、「緊急避難」として認めるべきだというのであれば、それはそれで議論としてはあり得なくもないでしょうが、そこにおいても、泥棒の移動の自由を問題としているものではありません。
「移動の自由」という点であれば、そこで問題とされるべきは、たまたま通りかかった無関係の第三者の「移動の自由」ということになるでしょう(そもそも、移動の自由というというよりも、財産権そのものの侵害だとは思いますが。)。
通信の秘密は、憲法上保障された権利です。
憲法上保障された権利を、必要性があるからという理由だけで、無制限に侵害して良いということにはなりません。
無関係の第三者の権利を侵害する結果を生じさせる以上は、国民の代表者によって構成される国会による立法によるべきだというのが、今回の対応を批判している弁護士の多くの見解だと思います。