「ほんまもん」の弁護士が、NTTコムを提訴


弁護士の最所です。

 埼玉県の中澤佑一弁護士が、NTTコミュニケーションズに対して、サイトブロッキングの決定が契約上の義務の不履行だとして、東京地方裁判所に対して訴えを提起しました。

 この件に関しては、多くの報道がなされていますが、特に重要なのが、普段、誹謗中傷や著作権侵害等を理由として、インターネット上の削除に取り組んでいる弁護士が、普段、「通信の秘密」を声高に叫びながら、削除や発信者情報の開示を拒んでいるプロバイダに対して、「通信の秘密」を守れと主張している点です。

 普段、業務として発信者情報の開示を行っている弁護士も、表現の自由や通信の秘密をないがしろにしても良いとは全く考えていません。

 むしろ、インターネット上での表現の自由や通信の秘密の重要性を認識しているからこそ、そこから逸脱した行為について、被害者の権利を守る立場から闘っているのです。その意味でも、インターネット上の削除を中心に行っている弁護士が立ち上がったということに、重要な意義があります。

 今回、原告として立ち上がった中澤佑一弁護士は、インターネットに関連する事件で、裁判所による新判断が出されるような場合には、何度も名前が登場します(一例として、アイデンティティ権削除代行業者による削除請求を違法とし報酬の返金を命じた判決、「極真会館」商標登録無効、等)。

 これ以外にも、重要な判断基準となるような判決をいくつも取得されています。

 インターネットの削除分野では、大雑把にいって、神田知宏弁護士清水陽平弁護士中澤佑一弁護士(※あいうえお順)の3人の弁護士で、著名判決の6割から7割の判決を取っていると言っても過言ではありません。

 今回のサイトブロッキングに至る経緯として、そもそも、出版社側は、やるべきことをやっていないのではないかというような話が出ていますが、私の感覚からしても、そのように感じています。

 実際に行ったとされているもののほとんどは、任意の削除要請のようですし(そもそも、応じる可能性がないところにやってもあまり意味はありませんし、個人的には、説明に上がっていた数字は、著作権での削除率としては相当低い印象です。)、裁判上の手続きについても、5ちゃんねるやyoutube、googleには、やられているようなお話でしたが、クラウドフレアに対してはやっていないと仰っていていましたから、それほど多くの裁判上の手続きはされていないような印象を受けています。

 これは、推測ですが、出版社側の弁護士の先生も、おそらく、上記お三方の書籍は、購入されて内容を確認されているはずです(ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第2版インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル等)。

  ちなみに、上記、5ちゃんねるや、google、youtubu に対する対応方法については、上記書籍にも記載されていますので、ある意味、対応方法が一応確立されています。もちろん、これらの対応方法を確立されたのは、上記お三方です。うがった見方なのかもしれませんが、書籍等で対応方法が分かるものについては、それに応じて対応したが、対応方法に関する文献がないものについては、対応しなかった(できなかった)のではないかと推察しています。

 誰もやったことがないことに挑戦するのは大変ですし、当然失敗もします。しかしながら、そのような失敗の中から、問題点を探り、場合によっては、裁判所にも問題点を理解してもらいながら、現行法の枠組みの中で、対応できることを一つ一つやっていく、そういったプロセスが重要です。そして、その中で、最高裁が判断する、あるいは、立法によって解決されていく、そういった過程を経ることが、個人の重要な利益が対立する場面では、特に重要だと思います。被害額が3000億というのであれば(損害に関する主張の根拠を見る限り、裁判所の判断として、損害額を3000億と認めることはないと思いますが)、「十分な」スキルを有する複数の弁護士に対応を依頼することで、短期間に相応の成果をあげられたはずです。

 私としては、まずは、裁判上の手続きを行い、その上で、認められなかった場合に、認められない理由が法の不備にあるのであれば、その点について、政府に対して活動をすべきだったと思っています。実際に、現在のプロ責法には問題が多く、真に権利救済を図ろうとすれば、まずは、プロ責法の改正と省令の変更を行うのが先決です。

 本当にできないのか、できない理由がどこにあるのか、真の救済を図るためにはどのようにしたら良いのか、その答えは、「必要なのは、ブロッキングでは無く、「十分な」スキルを有する弁護士に相談することである。」にあると思っています(※壇俊光弁護士は、インターネット問題のパイオニア的存在で、インターネット問題を扱う若手弁護士にとっては「師匠」的立場の弁護士です。「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」では、パネラーとして登壇されています。)。