ある日突然借金まみれに!?~国籍の違いが生む意外な問題~ 弁護士 静谷豪


大阪には韓国籍の方が多く居住しておられますので,大阪事務所でも韓国籍の方からご相談いただく機会が多々あります。とは言っても,日本で生活する限り,日常の活動に適用される法律は日本の法律ですから,国籍の違いが法律の世界で問題になることはあまり多くありません。
ですが,国籍の違いが適用される法律の違いにはっきりと表れる場面もあり,その代表例として,相続に関する問題を挙げることができます。

日本では,「法の適用に関する通則法」という法律が,外国人が関係する法律上の問題について,いずれの法律を適用すべきかということを定めています。そして,その36条では,「相続は,被相続人の本国法による」と定められています。そのため,日本に在住する韓国人が亡くなった場合には,そこから発生する相続問題については,基本的に韓国の法律を適用すべきだということになります。
ただ,例外として,遺言の中に「私は日本の法律を相続の際に適用される法律として指定します」といったような内容が盛り込まれている場合には,その方の相続には日本の法律が適用されることになります。

このように,同じように日本国内で生活していても,適用される法律が異なる場面が出てくるため,どのように解決すればよいか一般の方には判断に困るケースが出てきます。
私が実際に依頼を受けた案件は,相続放棄に関する問題でした。
相続放棄をする場合,日本の民法では「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3か月以内に,家庭裁判所に対して放棄の申し出をしなければならないとされています。
通常は,被相続人が亡くなられるときにプラスの財産もマイナスの財産も把握されているケースが多いかと思いますが,まれに,死後数か月又は数年といった長期間が経過してから多額の借金の存在が明らかになったというケースも見受けられます。
そのような場合,先ほどの「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」をいつからカウントするのかという問題として扱い,そのスタート地点をずらすことで解決を図るのが日本の法律のもとでの裁判所の考え方であり,実際にもそのような運用が図られています。
もっとも,亡くなった方が韓国籍であり,遺言で「日本の法律を適用する」といった指定がされていないケースでは,日本の法律は適用されませんので,このような解決方法は取れないことになります。
それでは,韓国の法律ではどうなっているのかと言うと,日本と同様に相続放棄の制度は設けられているのですが,韓国の裁判所は,期間制限のスタート地点をずらすという考え方について否定的な立場をとっています。
とはいえ,途方もなく大きな金額であるにもかかわらず,その存在について何も知らなかったような借金を,ある日突然背負わないといけなくなるというのは,あまりに不合理です。
そこで,韓国の法律では,「特別限定承認」という制度を設けて,このようなケースの解決を図っています。私の場合も,韓国の法律に定められたこの制度を,日本の裁判所の下で利用し,問題の解決にあたりました。

このように,国籍の違いが思わぬところで問題となることがあります。その場合,必要な手続き,そこで求められる書類といった専門的な知識なくしては,適切に問題を解決することが難しいように思います。
すでにこのような問題を抱えている,又はこれからそういう問題が起こりそうだという方は,早めに弁護士にご相談されることをお勧めいたします。