バンコクで想う(海外雑感) 代表弁護士 玄君先


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バンコクの物価は安い。一人当たりGDPで日本を抜いたシンガポールは言うまでもなく、東南アジア主要都市で日本人スタンダードの生活をしようとすると日本で地方暮らしするのとさほど変わらないが、バンコクは違う。路上での屋台を規制しないから家賃を上げられないからなのか、理由はよくわからない。仏教の教えのお陰か、国民が足るを知っていて、あまり身の丈以上の生活を望まない、高い給与を求めてガツガツ働くというよりは、仕事ものんびりするという話も聞く。

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この勤労習慣に多かれ少なかれ影響しているのが、労働規制だろう。タイでは、外国人が入国して、取引先を訪問しようが、エンジニアが機械の修理をしようが、国内での「労働」とみなされ、法律上は雇用許可証(Work Permit)を取らなければならない。もちろん、出張でWork Permitを事前に取得することは99.9%ない。ただ、これが見つかって当局に身柄拘束される例も最近あったらしいので、厳密には出張者はリスクを取っていることになる。少なくとも法律上は、かなり外国人がタイでビジネスをやりたければWork Permitを取らなければならないということになる。その結果か、ローカル新聞ではWork Permit取得や更新をサポートするコンサルタントの広告があふれている。

加えて、外国人1人にWork Permitを発行するのに4人のローカルスタッフを採用しなければならない。こういった厳しい現地人雇用保護のルールのお陰で1%以下という低い失業率を維持でき、失職のリスクをあまり恐れず、のんびり仕事ができているのかもしれない。

一昨年の洪水被害以降、タイ経済は急速に復興し、タイバーツが高騰し、市内では高層タワーレジデンスの建設ラッシュだ。そういう中でインラック首相が労働者の生活環境改善を目的として、2013年1月1日から最低賃金が一日300バーツに引き上げられた(これは40%の上昇)。この政策がむしろ、物価上昇や中小企業の収益圧迫要因につながりその結果失業者を増やすことが懸念されている。街中では、クレジットカード会社や消費者金融会社の広告とともに、個人信用情報センターの窓口も見かけた。経済成長を実感する中で「足るを知る世界」から「身の丈以上の生活」を目指す社会に変わりつつあるのかも知れない。

高度経済成長期を経て、エコノミックアニマルと揶揄され、一億総中流社会の理想郷を目指した日本は、多額の負債と社会保障費の膨張に苦しんでいる。 比較法上も厳格な解雇制限が終身雇用を可能にし、高度経済を支えるとともに富の分配に貢献した反面、硬直な制度設計が社会の変化に対応出来ず、「足るを知る世界」への回帰をもはや不可能にしつつある。

労働規制がその国の社会、経済に与える影響は大きい。日本の失敗例を学びつつ、タイでも政府による賢明な舵取りが行われることを期待する。

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