湘南平塚事務所弁護士の最所です。
「地獄の沙汰も金次第」
これは、よく言われることわざですが、日本の裁判の場合にも、当てはまるでしょうか。
私の感覚としては、当てはまると言えば当てはまるし、当てはまらないといえば当てはまらないというのが正直なところです。
当然と言えば当然ですが、お金がある人の方が、多くの弁護士の中から、弁護士を選ぶことができるという点で、選択の幅は広がります。
このことは、刑事事件、一つをとっても、明らかです。
お金があれば、私選(自分で弁護士を選任する)で、弁護人を選任できますが、お金がなければ、裁判所に、国選(国が弁護士を選任する)弁護人を選任してもらうしかありません。
当然、国選弁護人には、当たり外れがあります。
国選でも私選でも関係なく、真剣に対応してくれる弁護士もいれば、仕事がないので、国選でも、という弁護士も、現実にはいますので。
では、民事事件の場合は、どうでしょう。
民事事件の場合は、国選という制度はありませんし、弁護士を代理人に選任しなくても、裁判はできますから、その意味で、どの弁護士を選ぶかは、その人の選択次第です。
ただ、一般的には、誰もが依頼したくなるような弁護士に依頼するとなると、そこは、当然、需給バランスの問題が生じますので、お金を持っている人の方が依頼し易いという側面はあると思います。
とはいえ、「普通の人が依頼したくなる弁護士」=「優秀な弁護士」であるかというと、そこには、相当な疑問があります。
「普通の人が依頼したくなる弁護士」といえば、例えば、テレビに出ている弁護士、弁護士会の役職経験者、高学歴な弁護士、ということになろうかと思うのですが、実のところ、そういう人が、必ずしも、「優秀な弁護士」かというと、必ずしもそうとは言えません。
また、「自分なら勝てる」という弁護士、これは、かなりヤバいです。
裁判には、誰もが負けたくないと考えるのは当然です。
そんな中で、「他の弁護士は駄目だが、自分なら勝てる」といい、自分が代理人をする以上、高額な報酬を払ってもらう必要があるなどとして、高額な着手金(一番始めにもらう報酬で、返金がされないもの)を要求するケース、これは、完全に疑った方が良いでしょう。
理由は、単純です。確実に勝てるのであれば、なにも、始めに多額の報酬をもらわなくても、成功報酬で、きちんと支払ってもらうことを約束すれば十分だからです。
お金がある → 弁護士の選択の幅が増える。
この部分は、正しいと言えますが、
弁護士の選択の幅が増える → 本当に優秀な弁護士に依頼できる。
この部分は、必ずしも正しいとは言えません。
また、そもそも、「弁護士の優劣によって結論が変わることを潔しとしない。」と考えている裁判官が、非常に多く存在しています。
私は、この考え自体、裁判官のエリート意識の現れそのものだと思っていて、裁判官の姿勢自体にも非常に疑問があるのですが、現実には、そのような裁判官が多く存在しています。
このような裁判官の場合、まず先に結論ありき(このような結論になるのが正義である。)で、かなり、強引な事実認定をしてしまうこともあります。
とはいえ、現実に、そのような裁判官がいる以上、いることを前提に対応を考えなければなりません。
そのため、本当に優秀な弁護士であれば、弁論準備手続(争点及び証拠の整理を行う為の手続)の裁判官のちょっとした言動から、その裁判官の傾向を読み取るようにします。
そして、同時に、双方から提出された証拠の価値を適切に判断した上で、判決の結論を早期に予想し、不利な判決となりそうであれば、できる限り早期に和解による解決を目指すべきか否か(訴訟の終盤になればなるだけ、判決の結論が見やすくなる反面、判決の結論をベースとした和解しかできなくなってきます。)についても、検討します。
さらには、極端な話、裁判官の交代の可能性についても検討した上で、その可能性もないということであれば、控訴審で判断が変わる可能性も考慮した上で、和解をすべきか否かについても検討する、そういった選択肢を、依頼者に適切に提案できるか、その点が非常に重要だと思っています。
当然、そういう適切な対応をする弁護士であれば、必要な主張はすべて主張し、必要な立証もしっかりとやるでしょう。
しかしながら、それでも、敗訴することはあります。
もちろん、弁護士の中には、それこそ、本当に資格があるのかかすら疑いたくなるような主張をしたり、適切な主張をしない弁護士もいますが、そのような弁護士に対しても、裁判所は、「手助け」をしたりしますので、余程、裁判所の言うことを聞かないようなケースでもなければ、駄目な弁護士でも、何とかできてしまうのが現実です。
結局のところ、弁護士によって裁判の結論が変わるかといえば、結論としては、あまり変わらないのかも知れません。
しかし、その結論を回避するための方法を適切に選択すれば、最悪の結論を回避しうる、想定される複数の結論の中から、有利な結論を取りうる、その意味での、結論は、大きく変わるということはできるでしょう。