湘南平塚事務所弁護士の最所です。
東京高裁が、「忘れられる権利」について言及した昨年12月のさいたま地裁の決定を取消したとの報道がなされております。
「忘れられる権利」について言及した、さいたま地裁の決定を取り消されたという点に大きな注目が集まっていますが、さいたま地裁の決定が取り消された理由は、「忘れられる権利」が認められないことを理由とするものではありません。 「忘れられる権利」を、独立の権利として認めなかったとしても、名誉権やプライバシー権に基づいて、検索結果の差止を求めることは、何ら否定はされていないのです。
今回の高裁決定でも、グーグルの検索結果について、削除を求めることができる場合があることは認められています。
その意味では、「忘れられる権利」が認められなかったとしても、大きく結論が変わるものではありません。
今回、さいたま地裁の決定が取り消されたのは、社会の重大な関心事であること、罰金の納付を終えてから5年を経過しておらず、刑の言い渡しの効力が失われていないこと(刑法34条の2第1項)からすれば、いまだ公共の利害に関する事項であるとして、名誉権侵害に基づく差止請求が否定されたに過ぎません。
また、プライバシー権侵害の点についても、検索結果の削除を請求することが認められる余地があることを前提に、未だ公共性を失っていないとして、表現の自由を優先し、プライバシー権に基づく検索結果の削除請求が否定されたものです。
いうなれば、今回の高裁決定は、ある種の事例判断に過ぎません。
報道等に接すると、検索結果に対する削除請求は、「忘れられる権利」に基づいて行うものであるかのような印象を抱いてしまいがちですが、実際の裁判の場面では、人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権として構成しています。その中で、新たな概念として、「忘れられる権利」についても言及し、主張しているというのが、実状です。
この点については、私も参加させて頂いております、「プロバイダ責任制限法判例集」(プロバイダ責任制限法実務研究会編 LABO )の23頁、24頁に記載しておりますので、ご参考にしていただければ幸いです。