弁護士の最所です。
弊所にご相談をされるお客様から、「インターネットを利用していて、間違って承認ボタンを押してしまいました。画面に契約が成立しましたと表示されてしまいましたが、支払う必要があるのでしょうか。」というご相談を最近よく受けることがあります。結論から言うと誤って承認ボタンを一度押しただけでは契約は成立していませんので、支払う必要はありません。以下では、法律上のご説明をさせて頂きます。
誤って承認ボタンを押したということは、真実その商品を購入するつもりがないにも拘わらず、購入すると相手に伝えてしまったということになります。このことは、たとえば、髙島屋で「高島彩のカレンダー下さい。」というつもりで、間違って「髙島屋のカレンダーを下さい。」と言ってしまったと場合を想定して見て下さい。
この場合、髙島屋の店員さんに「こちらです。来年の弊社のカレンダーです。」と言われて、髙島屋のカレンダーを渡されてしまった場合、その髙島屋のカレンダーが1000円だったとすると、髙島屋に対して、1000円を支払う必要が生じるでしょうか。この場合、言い間違いですから、民法上は表示の錯誤として無効となります(民法95条)。したがって、売買契約の効力が発生致しませんから、支払う必要はないということになります。ただ、民法95条は但書で、言い間違いをした人に重過失がある場合には、錯誤無効の主張ができないとされていますので、通常の取引の場合では、いつでも錯誤無効の主張ができるというものではありません。しかし、インターネット上の取引では、ついつい操作ミスなどで誤ってクリックしてしまう場合が多いことから、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」によって、民法95条但書の規定の適用が修正されています。
この条文からすると、申込について確認画面を表示し確認を求めるか、確認をする必要がないとの意思を示さない限り、重過失があった場合でも、錯誤無効の主張が認められることになります。民法95条と「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」によって、誤って一度承認ボタンを押しただけの段階では、契約の無効を主張できますので、支払う必要はないことになります。
また、悪質業者のサイトでは、指定の口座に振り込まないと裁判上の手続を利用して、勤務先を調べるであるとか、給料を差し押さえるだとか書いた文面を表示するところもあるようです。しかし、業者に対してお客様ご自身の氏名や住所を送信していないのであれば、業者としては請求のしようがありませんので、現実に請求されることはまずありません。
“(参照条文) 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律
第三条 民法第九十五条 ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。”