リツイート者の責任


弁護士の最所です。

大阪地裁は、リツイートは賛同行為であるとして、橋下氏に対する名誉毀損の成立を認めました(判決文を確認した訳ではありませんので、あくまでも報道を前提として記載しております。)。 「毎日新聞2019年9月12日 15時20分(最終更新 9月12日 20時30分)」

私自身、リツイートが賛同行為であるとの事実認定については疑問がない訳ではありません。また、そもそも、賛同行為であるとの事実認定をする必要があったのかという点についても、疑問を有しております。

しかしながら、リツイート行為について、名誉毀損の成立を認めたこと自体については、妥当な判断だと思っています。

リツイートは、他人のツイートを自らの意思で、自らのツイッターに投稿する行為ですので、その意味では、自らの表現行為と何ら変わりはありません。

そのため、リツイートの内容が、他人の社会的評価を低下させる内容であったり、または、他人のプライバシー権を侵害する内容であったりした場合、リツイートした人が責任を負うべきは、むしろ当然のことです。

もっとも、この点については、賛否両論あるでしょう。

これは、自らを投稿した立場において想像する人と投稿によって被害を受けた立場に置いて考える人によっても、大きく異なりますし、また、橋下氏のように、その言動自体に大きな影響力を有する人の場合には、普段の言動から、そもそも、好き嫌いというのもあるでしょう。

ただ、名誉毀損の成立に関しては、あくまでも、中立的に、対象者に対する「好き嫌い」は、一先ずおいて考えなければなりません。そうでないと、こいつに対してはOKだけれども、別の人に対しては、ダメということになれば、それこそ、場当たり的な判断になってしまいます。

自らを投稿した人の立場において想像した場合、

 他人がツイートした内容が面白いと思って、リツイートしただけだ。ツイートした人は、著名な人なので、事実だと思った。自分は、何も書いていない。単に、リツイートしただけだ。

 それなのに、責任を負わされるのは、酷すぎる。

と考えるのではないでしょうか。

一方、投稿によって被害を受けた立場において考えた場合、

 拡散させたのは、リツイートした本人ではないか、無責任なリツイートがなされなければ、ここまでの被害を受けることはなかったはずだ。自らの意思で拡散させた以上、自らの発言には責任を持て。単にリツイートしただけという理由で責任を免れるのであれば、意図的に、リツイートを繰り返すことで、いくらでも、名誉毀損行為ができることになってしまうではないか。

 無責任に名誉毀損表現を拡散させたのだから、責任を問われるのは当然だ。

と考えるでしょう。

インターネット上で、謂われのない誹謗中傷を受けた人からの依頼を受け、裁判上の対応をしている私の立場からすれば、今回の大阪地裁の判断自体は、至極妥当なものであると思っています。

これまでにも、リツイートについて、自らの表現行為として責任を問われると判断した裁判例はありますので、今回の大阪地裁の判断自体も、過去の裁判例に沿った判断だというのが、私の感覚です。

もっとも、今回の件では、報道を見る限り、たった1回のリツイートだったようです。

リツイートは、リツイートボタンを連続して2回クリックすれば、簡単にリツイートできてしまいますので、例えば、酔った勢いで、ついついやってしまったというようなことは、多くの人にも経験があるのではないでしょうか。

だからこそ、たった1回のリツイートで責任を問われてしまうなんてと考える人が多くいるというのもわかります。

しかしながら、今回のケースでは、18万人ものフォローワーがいたようですので、1回のリツイートで18万人の人の目に触れたということになります。これは、被害を受けた側からすると、極めて甚大な被害を受けたといえるでしょう。

その点からすると、認容された慰謝料金額33万円(※おそらく3万円は弁護士費用相当額なので、慰謝料としては30万円と思われます。)は、現在の裁判所のある種の「相場」ではありますが、低すぎるのではないかと思っています。

とはいえ、被害者保護の観点からすると、安易なリツイートに責任を認めた、今回の大阪地裁の判断は、妥当なものであると思っています。