湘南平塚事務所弁護士の最所です。
先日、大阪地裁が「「逸失利益」について、全労働者の平均賃金に基づき約1940万円と認定」したとの報道がありました。
この判決は、確かに、報道を見る限りでは、「障がい児の逸失利益を平均賃金で算出」した点で、非常に画期的なものだと思います。
ただ、順調な発達状況が窺えた点を考慮して、「将来的には一般的な就労ができた確率が高い」との判断をしている点からすると、必ずしも、旧来の枠組みから大きく離れた判断をした、というわけでもなさそうです。
率直な感想としては、ある種、妥当な事案解決をする為に、多少強引な事実認定を行ったのではないか、そのように思えなくもありません。
そもそも、損害賠償請求の場面では、その行為がなければ得られたであろう利益が、賠償の対象となります。そのため、将来に渡って、「得られたであろう利益」は、あくまでも推測に基づいて算定されたものにならざるを得ません。
現実にそのような利益を得ることができなくなったのですから、ある意味、これは当然でしょう。
ここで、問題となるのが、そのような推測が果たして妥当なのかという点です。
一般的には、以下のような「推測」の下に、判断がなされています。
大卒の人の方が、高卒の人よりも、高い給与を取得する可能性が高い、だから、大卒の人の方が、高卒の人に比べて、将来「得られたであろう利益」は高い、男性と女性を比較した場合、男性の方が、高い給与を取得する可能性が高い、だから、男性の方が、女性に比べて、将来「得られたであろう利益」は高い、だから、大卒の人は、大卒平均の収入を前提に判断し、高卒の人は、高卒平均の収入を前提に判断し、女性は、女性の平均収入を前提に判断すべきである・・・。
このような判断は、一見合理的なようにも見えますが、ある種の「偏見」に基づく判断だともいえます。
一年後や二年後の年収を推測するのであれば、その人の「属性」をもとに判断することは正しいかもしれません。
しかし、二〇年後、三〇年後の年収を、その人の「属性」から、推測することが果たして妥当でしょうか。
有名大学を卒業して「大企業」に就職をしました、その人が、二〇年後、三〇年後も、その企業に残っている確率がどの程度あるでしょうか。そもそも、その「大企業」が存続していると言えるでしょうか。仮に転職しても、「大企業」に入社するような人であれば、相応の地位と収入が得られるはずだ、果たしてそうでしょうか。
有名大学を卒業した人でも、一旦、非正規労働者の立場になれば、年収は激減します。そこから、正社員の立場になることも困難ですし、なれたとしても、従前の収入を得ることは困難です。また、突然、病気や事故で亡くなってしまうこともあります。
大学を中退して、起業したものの、失敗続きであった人が、その後、画期的な商品開発に成功して、莫大な収入を得るようになった、そういうこともあるでしょう。
また、当時は、不治の病とされ、就労が困難であったが、画期的な治療法が見つかり、病気が治癒し、普通に働いて収入が得られるようになった、そういうこともあるでしょう。
そもそも、二〇年後、三〇年後の年収がこの程度である「確率が高い」と判断できるのでしょうか。本質的な問題として、「属性」をどう捉えるのかによっても異なるのではないでしょうか。
私は、「推測」に基づいて判断せざるを得ないのであれば、どのような「属性」の人であっても、基本的には、全年齢労働者平均に基づいて、算定すべきであると思っています。
ある「属性」の人だから、その人の二〇年後、三〇年後の年収は、この程度であるはずだ、というのは、偏見以外の何ものでもない、私は、そのように考えております。