弁護士の最所です。
朝日新聞に『誹謗中傷対策で総務省が方針転換 通信履歴「3~6カ月程度保存を」』との記事が掲載されています。
これまで、発信者情報開示を扱う弁護士が言い続けてきたことを、ようやく、総務省が「保存」をするように、方針転換をしました。
従前、どういうことを、総務省が言っていたかというと、 (※詳しくは、「権利侵害が明白でも、発信者を特定できないという現実」をご参照下さい。)
従前の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(解説)」では、
「本請求権は、先にも述べたとおり、現にプロバイダ等が保有している発信者情報について開示の対象とするものであって、プロバイダ等に対して発信者情報等の保存を義務づけるものではない。むしろ、情報の適正な管理の観点からは、発信者情報のような個人情報については、プロバイダ等にとって保存の必要がない場合には、速やかに削除すべきものと考えられる」(34頁)
「総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(平成 29 年総務省告示第 152 号)では、通信の秘密に係るもの以外の個人データについては「電気通信事業者は、個人データ(通信の秘密に係るものを除く。以下この条において同じ。)を取り扱うに当たっては、利用目的に必要な範囲で保存期間を定め、当該保存期間経過後又は利用する必要がなくなった後は、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。」(第 10 条第1項)
と規定する一方、通信の秘密に係る個人情報については、
「電気通信事業者は、利用者の同意がある場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、通信の秘密に係る個人情報を保存してはならず、保存が許される場合であっても利用目的達成後においては、その個人情報を速やかに消去しなければならない。」(第 10 条第2項)と規定。
また、通信履歴の記録については、「電気通信事業者は、通信履歴(利用者が電気通信を利用した日時、当該電気通信の相手方その他の利用者の電気通信に係る情報であって当該電気通信の内容以外のものをいう。以下同じ。)については、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止その他の業務の遂行上必要な場合に限り、記録することができる。」(第 32 条第1項)と規定」(35頁脚注)
として、「発信者情報のような個人情報」は「速やかに削除すべき」、「通信の秘密に係る個人情報を保存してはならず、保存が許される場合であっても利用目的達成後においては、その個人情報を速やかに消去しなければならない。」、「通信履歴」については、「業務の遂行上必要な場合に限り、記録することができる」と言っていました。
要するに、総務省は、原則保存するな、業務上の必要がある場合のみ保存してもよいが、目的を達成した後は、速やかに消去しろ、このように言っていたのです。
そのため、
権利侵害が明白であった場合であったとしても、発信者を特定できない。
という現実がありました(※現在も続いていています。)。
これまで、散々、発信者情報の開示に携わる弁護士が、主張していたにも拘わらず、総務省は、「通信の秘密」を盾に、一貫して、保存することに対して、否定的な立場を貫いていました。
これは、一度決めたことを決して変えようとしない、悪しき官僚主義の最たるものだと思っています。誤りを認めようとしない、前例踏襲、どれだけ批判されても、全く変えようとしない、官僚主義の権化です。
それで、本当に、総務省が、「通信の秘密」が重要であると考えていたかというと、ブロッキングの是非が論議されているときには、自分達には、あたかも関係がないかのような対応を平気でしています。
これまで、ネット上での誹謗中傷で悩む被害者を放置してきていながら、政治的な圧力には、容易に屈する、そのような総務省の対応を目の当たりにして、非常に腹立たしく思っていました。
ようやく、遅すぎるというほかないですが、それでも、変えたということは、評価すべきことだとは思っています。