金融円滑化法終了後の中小企業の再建等について


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1.金融円滑化法の概要と、同法終了により中小企業に生じ得る事態

(1)金融円滑化法の概要

金融円滑化法は、正式名称を「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」といい、近年の不況下において中小企業の経営を支援するために制定され、平成21年12月4日に施行されたもので、平成25年3月末を最終期限とする時限立法です(以下「円滑化法」といいます。期限は、当初は平成23年3月末とされていましたが、2回延長されました。)。なお、同法は、住宅資金 借り手についても定めていますが、ここでは中小企業に関するものを取り上げます。

円滑化法による中小企業支援の概要は、次の①から③のとおりです。

  1. 金融機関の努力義務:金融機関は、中小企業者から、事業資金の貸付けに係る債務の弁済に係る負担の軽減の申込みがあった場合には、できる限り、当該貸付けの条件の変更等の当該債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をとるよう努める(第4条)
  2. 金融機関自らの取組み:金融機関は、ⅰ 貸付条件の変更等の措置を円滑にとることができるよう、当該措置の実施に関する方針の策定、当該措置の状況を適切に把握するための体制の整備等必要な措置を講じなければならない(第6条)、ⅱ 上記①の貸付条件変更等の措置の実施状況に関する事項、上記ⅰの当該措置の実施に関する方針の策定、当該措置の状況を適切に把握するための体制の整備等の措置の概要に関する事項を開示する(第7条)
  3. 行政上の対応:金融機関は、上記①、上記②ⅰの措置の詳細に関する事項を行政庁に報告しなければならず、行政庁は、これを取りまとめ、その概要を公表する(第8条)

(2)円滑化法終了により中小企業に生じ得る事態

円滑化法に基づく貸付条件の変更等の状況は、金融庁の公表によれば、施行日(平成21年12月4日)から平成24年9月30日までの間では、約369万件の申込に対し、約343万件の実行がありました。

円滑化法の終了により、今後は、従前は同法の規定に従ってリスケ(支払猶予)等の軽減措置に応じていた金融機関が、これらの措置に応じなくなる、または、応じることが容易でなくなる可能性があります。金融機関の融資先企業への対応は、当該企業の財務・損益等経営状況に応じたものになるといわれています。金融機関の対応次第では、中小企業は、融資の返済の負担のために資金繰りが圧迫し、事業の継続に支障さえきたす事態が生じ得ると考えられます。

企業としては、自身の経営状況に対する金融機関の評価・判断を知ることが重要と考えられ、また、売上増加・費用削減等を含めた経営改善により、負債の返済原資となる利益を上げる必要のあることは勿論ですが、企業自身の努力だけでは資金繰りの改善が困難であるか、困難と見込まれる場合には、専門家を利用しての再建・整理のための手続をとることも検討しなければならないと考えられます。

そこで、そのような手続のうち、主なものの概要と特徴等を以下の2に挙げます。

2.中小企業の再建・整理のための手続

主な手続としては、大きく分類すると、基本的に企業が事業を継続し存続するために利用される再建型手続(以下(1)から(5))と、事業を終了し、企業をたたむ清算型手続(以下(6)と(7))があります。

(1)任意整理

裁判所の関与する手続によらずして、弁護士が債務者たる企業の代理人として介入し債権者(主に金融機関)との交渉を行う等により、債権者と債務者との合意をもって、債務について猶予・減額などの整理をすることです。

任意整理は、手続費用が比較的少額であり、また、当該企業の取引先を対象とせず、金融機関に対する債務についてのみ整理することが可能であるため、資金繰りが窮状にあることを取引先に知られにくいといえます。他面、金融機関において、リスケには応じても、債務免除には応じることは困難である、対象とする債権者全員から同意を得なければならない、強制執行に対応できない等のデメリットもあります。

(2)特定調停手続

債務の返済が困難な一定の債務者が、裁判所を間に入れて、債務の減額や支払条件等について債権者と話し合い、これを調整することを目的とする手続です。

特定調停は、裁判所が間に入る手続であるため、公平性が確かであるといえますし、手続は非公開で行われるため、外部に知られることもありません。費用も比較的少額の手続です。他方で、債権者と合意に至れなければ調停は成立しません。

(3)中小企業再生支援協議会を利用した手続

中小企業再生支援協議会は、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)41条に基づいて中小企業再生支援業務を行う者として認定を受けた商工会議所等の認定支援機関に設置された組織です。同会では、事業再生に関する専門家が常駐し、窮境にある中小企業者からの相談を受け付け、解決に向けた助言や支援機関の紹介などを行い、事業性など一定の要件を満たす場合には再生計画の策定を支援するとともに、債務者企業と債権者(金融機関等)との調整を実施しています。

特徴として、手続費用が比較的安価であることや、従前の実績があるため金融機関等の協力が得られやすいことが挙げられますが、再生計画の成立には対象債権者全員から同意が得られることが必要です。

(4)地域経済活性化支援機構(旧:企業再生支援機構)を利用した手続

地域経済活性化支援機構は、株式会社企業再生支援機構法に基づき、平成21年10月に設立された組織で(平成25年3月に、株式会社地域経済活性化支援機構に改組)、中堅事業者、中小企業者その他の事業者の事業の再生を支援するため、支援に関する相談の受付、事業再生計画の策定支援、債務調整等に係る事業者・債権者等との調整、同機構による出融資などを行っています。

特徴として、債権者との間での債務調整だけでなく、支援する事業者に対する同機構による出資や融資を行うことが可能です。これにより、債権者との間の調整が比較的しやすく、支援する事業者の経営基盤も強いものとなりやすいが、それゆえに事実上、支援の主な対象が中規模以上の企業に限られ、経営者=企業という中小企業では利用し難い面があるともいわれています。

(5)民事再生手続

債務超過のおそれがあるなど経済的に窮境にある債務者について、民事再生法に基づき裁判所の監督下で、債務者の事業または経済生活の再生を図る法的手続です。

民事再生手続は、上記(4)までに挙げた手続とは、債務者の再建を図るための手続であるのは同じですが、裁判所の監督の下で進められる法的手続である点で異なります。再生計画案が多数決で可決されるため(※)、債権者の一部に反対者がいても再生計画を成立させることができます。再生計画の成立により債務を強制的にカットでき、また、原則として従来の経営者が経営権を維持することができます。他方で、取引先に対する債務も対象とするために信用が失われる可能性がある、裁判所に納付する予納金や弁護士費用等の手続費用が高額になり得る、という側面もあります。
(※可決要件は、議決権を行使した議決権者の過半数で、かつ、議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を持つ者の同意)

上記(5)までに挙げた手続は、再建型の手続ですが、企業の経営・資金繰りの状況によっては、清算し企業をたたむことを選択すべき場合もあると思われます。このような場合の清算型手続としては、破産、特別清算などが挙げられます。

(6)破産手続

債務者が支払不能または債務超過にある場合に、債権者と債務者間の権利関係等を適切に調整しつつ、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る手続で、法的清算手続を代表する手続といえます。

裁判所の決定により破産手続が開始されると、裁判所の選任した破産管財人が債務者の財産を換価し、これを原資として、債権者に対し、債権の優先順位に従って公平に弁済する配当手続がなされます。

(7)特別清算手続

通常の清算手続を行っている株式会社について、債務超過の疑いがある等の場合に、裁判所の監督の下に行われる特別の清算手続です。 特別清算は、法的清算手続である点は破産手続と共通しますが、破産手続に比べて簡易な手続であり、また、管財人が選任されず、会社の選任した清算人(従前の経営者等)が清算事務を行います。債権者に対する弁済条件(協定案)には、総債権額の3分の2以上の債権者の同意を得ることを要するため、このような同意を得られる見込みがなければ、特別清算を選択することは困難といえます。

3.どのように再建等を進めていけばよいのか まずは早めに相談を

経済的に窮地にある企業が再建を目指す場合などに、具体的にどのようなプロセスで進めればよいのかは、当該企業の財務状況、経営環境をはじめ様々な事情を考慮し、検討した上で判断する必要があります。このような判断を適切に行うためには、上記2に挙げた再建・清算の手続等に関し高度に専門的な法律知識が不可欠といえます。正確な知識に基づかない対策は、せっかくの企業努力にもかかわらず、かえって再建の途を閉ざすといった事態を招くことにもなりかねません。

当事務所では、リスケ交渉等の金融機関対応を含め、債務の整理・再建等の経験を豊富に有しており、とくに、代表弁護士の玄は、大手渉外法律事務所、外資系投資銀行での長年の経験があります。そのため、企業様のご事情に応じた、最適な方針をご提案することができるものと自負しております。

実際に手続を進めるにあたっても、当事務所は、弁護士数が20名を超えており、それぞれの企業様のニーズに沿うことができるよう柔軟に対応できる体制が整っております。企業の再建・整理では、事務の性質上、多くの人員が必要となることがあり、この点でも、当事務所の規模が大きいことは、当事者である企業様の利益に直結するものといえます。

また、企業の再建等のために対策を講じる場合、一般的に、その時期が早ければ、それだけ選択肢の範囲も広いといえます。逆に、対策に乗り出す時期が遅くなったがために、再建を図る手続はとれず、破産する以外に方法がなくなってしまうということもあり得ます。 今般の円滑化法の終了により、企業の資金繰りが圧迫し、また、資金繰りに関し懸念があるなどの場合には、まずはお早めに当事務所にご相談ください。