転載しただけでは名誉棄損にならない!?


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 弁護士の最所です。

 Aさんは、インターネット上の掲示板に書かれた内容を、面白半分に、他の掲示板に転載してしまいました。  転載してしまったAさんの行為は、名誉毀損に問われるでしょうか。

 平成25年4月22日に、東京地裁で、

「既に公開されているインターネット上の掲示板に掲載された記事又は出版された書籍の内容を転載したものに過ぎず、これらの記事の掲載又は書籍の出版以上に原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。」

 という判断がなされました。

 東京地裁は、転載しただけでは、転載元に記載されている以上に、その人に対する社会的評価を低下させることにはならないとして、名誉毀損の成立を否定しました。

 はたして、この判断は妥当なものでしょうか。

 東京地裁の判断を前提とすれば、一度,インターネット上の掲示板に被害者の社会的評価を低下させる情報が掲載されれば,その後、他のインターネット上の掲示板に、その情報を転載して被害を拡大させたとしても、被害を拡大させた者に対しては、一切の責任を問うことができなくなってしまいます。

 確かに、軽い気持ちで、いたずら半分に転載した人に対して、そこまでの責任を負わせるのは、どうかという意見もあるでしょう。

 しかしながら、インターネット上で、確信犯的に誹謗中傷を行う者は、匿名であることを利用して、複数の掲示板に、同時にあるいは前後して、同一内容の誹謗中傷記事を投稿するのが通常です。

 これは、複数の掲示板に特定の人に対する誹謗中傷記事を投稿することで、その人の社会的評価をより低下させることを狙っているかに他なりません。

 実際、複数の掲示板に同じ内容の誹謗中傷記事が投稿されることで,グーグルをはじめとする検索サイトでは、その人の情報を検索した場合,その人に対する誹謗中傷記事が掲載されているサイトが上位に表示されるようになるなど、その人に対する誹謗中傷がより多くの人たちの目にさらされることになります。

 もし、東京地裁の判断を前提とすれば、確信犯的に誹謗中傷を行っている者は、訴訟の対象とされた投稿以前に、別のサイト(インターネット上の掲示板やブログ等を含む。)に、訴訟の対象とされた投稿と同一または類似の内容の情報が掲載されていたという事実(同一人物の投稿であるか否かを問わない。)を主張立証しさえすれば、容易に免責されることになってしまいます。

 今回の東京地裁の判断は、インターネット上で、同一又は類似の情報が繰り返し転載されることで,その情報の内容があたかも真実であるかのように捉えられてしまうという,インターネットの特徴的な効果や影響を見過ごした、著しく時代錯誤の判断であるといわざるを得ません。

 また、このような東京地裁の判断が有効な裁判例として残ってしまっては、インターネット上の誹謗中傷に苦しめられている方々の救済が著しく困難になってしまいます。

 私どもは、東京地裁の上記判断に対し、控訴審で争い、東京高等裁判所は、平成25年9月6日、上記地裁判決を取り消し、

 「先に△△△△掲示板に掲載された記事を転載したものであるか、又は、雑誌〇〇○○の×月号に掲載されていたことが認められる。しかし、本件情報□,△,◇をウェブサイト「○○○○」で見た者の多くがこれと前後して、△△△△掲示板の転載元の記事や雑誌○○○○の×月号の記事を読んだとは考えられず、ウェブサイト「○○○○」に本件情報□,△,◇を投稿した行為は、新たにより広範に情報を広め、控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる。」(筆者において一部伏字にいたしました。)

 と認定しました。

 インターネットの別掲示板での投稿を転載した場合の名誉毀損行為の成立について正面から判断した事例は、私どもが調べた限り有りませんでしたので、今回の高裁の判断がおそらく初めての判断になるものと思われます。

  軽い気持ちで、いたずら半分にコピーアンドペーストしてしまったとしても、名誉毀損の責任を問われる可能性がある、投稿を行う際には、自分の意見として責任をもって主張できる内容であるかを、今一度、冷静に判断していただきたいと思います。