今回は、「最高裁平成24年10月12日第2小法廷」の判例を取り上げたいと思います。判事事項は「株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権」です(裁判所HP)。
会社法2条30号に会社の「新設分割」という制度が定義されています。 商品の製造と販売両方を行うA社が、販売部門を切り離して子会社化したいと考えた場合に、新しく商品販売会社であるB社を設立し、B会社に、A会社の販売部門の権利と義務の全部または一部を承継させる場合に新設分割手続を利用するというのが典型例です。
このような新設分割で、例えば、A社の販売促進のために広告制作を行ったC社の広告制作費請求権が、B社に承継された場合、原則、C社は、B社に対して、広告制作費を請求していくことになります。そこで、A社から資産がほとんど移されず、B社に制作費を支払う資力がない場合、A社の資力を当てにしていたC社を害してしまいます。そこで、会社法はこのような場合、C社にA社の新設分割の手続に対して異議を述べる制度を設けています(810条)。
本判例では、事案を単純化すると、新設分割会社が自社の資産の大部分を、新設分割設立会社に承継したにもかかわらず、被上告人(1審原告)の債権は、新設分割設立会社に承継されなかったという事案です。
上記の例によると、A社が、自社の資産の大半をB社に移してしまったにもかかわらず、C社の広告制作費請求権はB社に移さなかったこととなります。この場合、C社はA社に対して、新設分割について異議を述べることができません。なぜなら、会社法810条は、異議を述べることができる債権者を、A社に債権を請求できない者に限っているからです。
では、C社は、新設分割手続が完了した後に、裁判所に「A社の新設分割は無効だ」と訴え出ることができるでしょうか。答えはできないと考えられます。このような訴えは、会社法828条1項10号に規定されていますが、訴えを起こせるのは、「新設分割について承認をしなかった債権者」に限定されており(同条2項10号)、ここでいう債権者は①810条で異議を述べた債権者、②810条で必要とされている格別の催告を受けなかった者(異議を述べることができる債権者が、その機会を逃さないように、分割を進めている会社からこれらの債権者に対して催告することを義務付けています)であると考えられているからです(「株式会社法」江頭憲治郎846頁)。C社はこれらの債権者にあたりません。
このように、C社は会社法上の制度を使って分割前に異議を述べることも、分割後に分割の無効を訴え出ることができないと考えられます。
もっとも、C社がA社の新設分割に何も文句が言えず、広告制作費を回収できないというのでは、C社の不利益は大きく、ひいては債権逃れの新設分割を促進してしまうことにもなりかねません。C社は、「B社からA社に資産を戻せ」といいたいでしょう。そこで考えられた法的手段が民法424条に規定されている詐害行為取消権の行使です。 この制度は、A社がC社を害することを知りつつ、C社に損害を与える行為をした場合にはC社はその行為を取り消すことができるというものです。
裁判所で、民法上の制度の詐害行為取消権が、会社法上の新設分割の場合でも利用できるかが争われたところ、最高裁は「株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務の承継がされず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される」と判断しました。
本判例は、会社法上、分割に異議を述べることができず、分割の無効を主張できない債権者に、民法上の救済の道を認めた点で意義のある判例であると思います。