プロバイダー責任制限法の改正!?(2)


「削除申請に対する迅速な対応」

 報道では、「削除申請があった場合に迅速な対応や削除基準の公表を義務づける」ということになりそうです。

 読売新聞2024年1月12日

 ところで、「迅速な対応」とはいっても、削除を求める側からすれば、それこそ、「直ちに」というのが本音だと思いますが、日々、膨大な削除要請がなされるプロバイダ側からすると、それをすべて目視して判断するというのは、物理的にも不可能です。

 そうすると、考えられるところとしては、あくまでも求められているのが「迅速な対応」ですから、誹謗中傷と認められる一定の類型のものをAIで削除して、それ以外のものについては、「迅速に」削除を拒否した上で、裁判上の対応を求めてきたものについてだけ、個別に対応する、そんな運用がなされるのではないかと思われます。

 その場合、AIでの削除の範囲を広げれば、本来許されるべき表現についても削除されることになるでしょうし(例えば、投稿した写真がどういう理由か分からないものの、児童ポルノと判断されてしまって、いきなりアカウントが停止されたりしたという話は良く聞きます。)、削除の範囲を狭めれば、削除されるべき表現が迅速に削除されることなく残り続けることとなってしまいます。

 そこのバランスは、結局は、各プロバイダの判断に委ねるしかありません。

「削除基準の公表」

 削除基準については、現状でも削除ポリシーとして、ネット上で公開されています。例えば、「X」では、禁止されるヘイト行為として、

 暴言や脅迫、差別的言動に対するXのポリシー

 と定めています。

 ただ、これを見て、許されないヘイト行為に当たるかどうかの判断基準を、一般の人が明確に読み取れるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。

 とはいえ、基準を明確化するということは、表現の自由を恣意的に制限させないということと、事後的な検証を可能にするという意味では、メリットがあるかもしれません。

「果たして、外国法人が日本政府のいうことを聞くのか!?」

 ところで、そもそもの話として、外国法人が、日本政府の言うことを素直に聞くのかという問題があります。

 日本で生活をしていると、民間企業が法律を無視したり、行政指導を無視したり、そんなことはするはずがないと、当然のように信じているはずです。

 それは、外国法人に対しては、全くの幻想です。

 彼らは、そもそも外国政府の要請には応じる義務がないと考えています。その上で、応じない場合の「メリット」「デメリット」を比較して、応じない「デメリット」の方が大きいと判断したときに、初めて対応します。

 削除に関しても、「法律があるから削除する」というのではなく、「自らの自主的な判断として削除している」、そのようなスタンスです。

 そのため、本気で改正する法律に実効性を持たせたいのであれば、法律に罰則を設ける必要があります。何らのペナルティも課せられないのであれば、いくら法律で定めても、全く実効性はありません。

 これまで、外国法人には、法律上、明確に日本での登記義務があったにも拘わらず、登記をしてこなかったという経緯、裁判所が決定を出しても従わず、間接強制の申立を行ってようやく対応する、そんな対応を、外国法人の多くが、ずっとやってきた訳ですから、法律を作っただけでは、何らの解決にもなりません。

 法律制定後の、実際の運用が非常に重要です。