弁護士の最所です。
1月12日の読売新聞オンラインに、こんな記事が出ていました。
「ネット上の誹謗中傷は迅速削除、SNS大手に義務付けへ…法改正で削除基準の透明化も」
プロバイダ責任制限法は、2021年4月28日に改正され、2022年10月1日より、改正法が施行されています。
この法律は、平成13年(2001年)に制定されてから、種々の問題点を指摘されながらも、20年間、全く改正がなされなかった法律です。その意味では、社会のニーズに応じて、速やかな改正がなされることは、歓迎すべきだと思います。
また、今回、法律の名称が、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」から、「特定電気通信による情報流通で発生する権利侵害等対処法」へと変更されるようです。
長い法律の名前ですが、要するに、元々、「プロバイダの責任を制限する法律」であったものを「ネット上で生じる権利侵害に対処する為の法律」との名称に変更しようというものです。
ここで、『なんで、「プロバイダの責任」を「加重する」のではなくて「制限する」の?』と思われる方の方が多いと思います。これは、まさに、時代背景がベースにあります。
プロバイダ責任制限法が制定された2001年当時のインターネット普及率は、人口比で44.0%(平成13年総務省通信動向調査)、当時の「利用しているアクセス回線の種別をみると、アナログ回線を利用している人が過半数(50.2%)であり、次いで、ISDNによるダイヤルアップ接続(34.0%)、ISDNによる常時接続(東・西NTTNのフレッツISDN)(7.4%)となって」(平成13年版 情報通信白書)いる状況で、まさに、インターネットの黎明期ともいうべき状況でした。
当時のプロバイダの状況は、当時の「ITメディア」をみると ↓
で、まぁ、制定時には、そこそこの規模の会社にはなっていますが、法律制定が議論されていた当時は、プロバイダは中小零細企業。またに、ベンチャー企業そのものでした。
そんな、中小のベンチャー企業に、重い法的責任を課してしまっては、これらの企業が潰れてしまう、そうなってしまっては、技術革新が図れない、そういった考えから、プロバイダに免責を認める内容の法律が制定された、それが時代背景です。
なお、日本で制定されたプロバイダ責任制限法よりも先に、米国では、米国通信品位法230条で、プロバイダに対する広範な免責が認められています。言論の自由を重視する立場から、プロバイダに広範な免責が認められてきたという経緯があるのですが、近年、偽情報の問題や事業者に政治的偏向があるのではないかとして、様々な議論がなされているところです。
総務省のHPでは、「1996年に成立した通信品位法第230条では、プロバイダは、①第三者が発信する情報について原則として責任を負わず、②有害なコンテンツに対する削除等の対応(アクセスを制限するため誠実かつ任意にとった措置)に関し責任を問われないとされており、プロバイダには広範な免責が認められてきた。同法の免責規定について、これまで、一定の要件の下にプロバイダに偽情報の流通に関して責任を負わせる方向での議論は行われており、法案も提出されたが、改正には至っていない(2023年4月時点)。」で紹介されています。
とはいえ、インターネットの黎明において、プロバイダは中小零細企業であるから保護すべき、という考え方が、現在もなお妥当するかというと、その点は、大分異なってきていると思います。
現在、問題となっているプロバイダは、「X」であるとか、「Google」であるとか、「Meta」という世界企業です。
これらの企業に対して、「重い責任を課しては、潰れてしまうので酷である。」。この考えに賛同する人はいないでしょう。むしろ、莫大な利益をあげ、強い影響力を有しているのだから、権利侵害が生じないように、きちんと対策をとるべきだ、そう考える人の方が圧倒的に多いと思います。
そのような中で、プロバイダの責任を「制限」する法律から、「ネット上で生じる権利侵害に対処する」為の法律へと名称を変更するというのは、一つの時代の流れかもしれないと思っています。