侮辱罪ー厳罰化の前にやるべきこと


 弁護士の最所です。

『侮辱罪法定刑、見直し検討 ネット中傷投稿の刑事罰―厳罰化に課題も・法務省』(時事通信社) との報道がなされています。

 現在、侮辱罪(刑法231条)の法定刑は、「拘留又は科料」(※科料とは「1000円以上1万円未満」(刑法17条)。拘留とは「1日以上30日未満」(刑法16条)。)とされ、非常に軽い法定刑に止まっています。

 「拘留又は科料」が法定刑として定められたものとして、軽犯罪法があります。もっとも、軽犯罪法に規定されている犯罪類型は、いわゆる「迷惑行為」に該当するものです。ようするに、侮辱罪は、それと同程度の犯罪だとして評価されているということになります。

 ネット上での誹謗中傷の場合、刑事事件化を求める場合には、名誉毀損罪(刑法230条)で刑事告訴するのが一般的です。

 とはいえ、「事実を摘示し」たかどうかについては、かなり微妙なケースもありますので、名誉毀損罪で刑事告訴したからといって、名誉毀損罪で立件されるとは限りません。当然、場合によっては、侮辱罪での立件となってしまうケースもあります。

 その場合、法定刑が3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされている名誉毀損罪と1万円未満の科料の侮辱罪との間の差が大きすぎるのではないかというのは、正に、そのとおりだと思います。

 ネット上の誹謗中傷の場合、かなり執拗なケースもありますし、全く反省すらしていない場合もありますので、そのような場合に、1万円未満の科料で済んでしまうというのは、私自身、些か軽すぎるのではないかと思っています。

 とはいえ、問題だ、どうにかすべきだという意見に対して、政府が行うことが、まずは厳罰化というのは、あまりにも、短絡に過ぎ、真の問題点から、目を背けさせようとしているのではないかとの疑いを持たずにはいられません。

 ネット上での誹謗中傷の最大の問題は、

 たとえ、権利侵害が明白であったとしても、発信者を特定出来ない

 という問題です。

 このことについては、私は、以前も強く主張しています。

 『権利侵害が明白でも、発信者を特定できないという現実』

  特に、問題なのは、本来手段であるはずの「通信の秘密」を絶対的なものと考える総務省の体質、これを改めなければなりません。

 この問題を理解されている政治家の方は、本当にいらっしゃるのでしょうか。

 総務省は、発信者を特定する為の唯一の手がかりであるログについて、

 原則保存するな、業務上の必要がある場合のみ保存してもよいが、目的を達成した後は、速やかに消去しろ

 このように言っているのです。

 そして、総務省から監督される立場にある通信事業者も、総務省の意向を忖度して、通信ログを調査・確認すること自体についても、憲法21条1項が保障する表現の自由、憲法21条2項及び電気通信事業4条1項によって保障される通信の秘密に対する侵害だとして、極めて消極的な態度を示しています。

 まずは、ここを改めなければ、被害者救済は図れません。

 「消極的な理由で泣き寝入りをほっておくのはこれ以上看過できない」と、本当にお考えでしたら、まずは、通信ログを適切に保管するよう通信事業者に対して要請して頂きたい、総務省が通信ログの保存について、公式に説明している内容について、まずは確認して頂きたい、総務省の体質を変えない限り、被害者が「泣き寝入り」する状態が解消されることはありません。