弁護士の最所です。
「私人逮捕系YouTuber」が逮捕されたとの報道がなされています。
嫌疑内容としては、覚醒剤取締法違反「教唆」のようです。
そもそも「教唆」とは
教唆とは、一般的には、他人に対して、犯罪を行うように唆す行為(仕向ける行為)を言います。
刑法61条1項は、「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。」と規定していて、刑法上は、教唆犯も正犯(犯罪の実行行為を行う者)と同様の責任を負うこととされています。
今回のケースでは、「私人逮捕系YouTuber」が、特定の場所に、覚醒剤を持ってくるように唆したようです。
いかなる行為が「教唆」にあたるのか?
覚せい剤取締法違反の正犯(実際に覚醒剤を所持していた者)となった人物が、いかなる経緯で覚醒剤を入手し、所持していたかについての事情は定かではありません。
例えば、女性を騙って、○○の掲示板で覚醒剤が入手できるようだから、そこで、覚醒剤を入手して、待ち合わせ場所に来てくれれば、○○円で買い取るし、その後の性交渉にも応じるとの内容を伝え接触した上で、具体的な待ち合わせの場所と時間を指定したようなケースを考えてみます。
このようなケースでは、指示内容はかなり具体的です。また、犯罪を行うことのメリットについても示していますので、一般的には、「教唆」犯が成立すると考えて良いと思います。
もし、「正義」だと考えていたとしたら・・・。
今回、逮捕された「私人逮捕系YouTuber」が、自らの行為が「教唆」行為にあたると認識していたかどうかは明らかではありませんが、犯罪者を逮捕することに貢献したのだから、正義であると考えていたとすれば、それは、あまりにも短絡的な発想であると言わざるを得ません。
違法な「おとり捜査」を警察が行ったとすると・・・。
仮に、同様のこと(いわゆる違法なおとり捜査)を警察が行ったとすれば、行った警察官自身に、教唆犯が成立することはもとより、国家が犯罪を作り出したことを理由として、将来の違法捜査抑止の観点から、捜査によって収集された覚醒剤の証拠能力(証拠として用いること)が否定されてしまう可能性もあります。
そもそも、捜査機関が行うことができないことを、捜査権限のない、「私人」が行うことができるはずもありません。
「私人逮捕系YouTuber」の目的が、アクセス数を稼いでお金儲けを狙っていたのか、正義感で行っていたのかについては断定はできませんが、仮に、正義感で行っていたとすれば、正義感で行った行為によって、自らが「犯罪」者となってしまっては、本末転倒です。