弁護士の最所です。
朝日新聞デジタルに、
との記事が掲載されていました。
記事によると、
「SNS事業者が被害者に開示できる情報に電話番号を追加する方針を明らかにした。匿名の情報発信者を特定する手続きが、大幅に簡素化される見通しとなる。」
とあります。しかし、電話番号が開示対象となったとしても、全く簡素化されることにはなりません。
現在でも、メールアドレスは開示対象ですが、メールアドレスの開示は保全の必要性がないとして、仮処分命令での開示は認められていません。そのため、仮に電話番号の開示が認められるようになったとしても、結局のところ、通常訴訟手続をとらなければならない現状には何ら変わりはありません。
しかも、SNS事業者の多くは外国法人なのですから、外国法人に対する通常訴訟を起こさなければ開示されない現状が続く限り、簡素化されたなどと言えるはずもないのです。
今のところ、高等裁判所の判断は出されていませんが、電話番号を推知することができるSMSメールアドレスの開示を東京地方裁判所は認める判断をしていますので、仮に、電話番号が開示対象となったしても、実質的には、東京地方裁判所の結論を、法律が追認する程度の意味しかないのが実情です。
現状でも、東京地裁の判断を前提とすれば、二段階認証システムを利用しているSNS事業者に対して、電話番号を推知することができるSMSメールアドレスの開示を求めることはできるのですから、現行法上できることを単に法律が認める程度の意味しかありません(もちろん、高等裁判所がSMSメールアドレスの開示を否定する判断をした場合には別ですが。)。
いずれにしても、電話番号を開示対象に含めることを、あたかも大改正であるかのごとく報道することは、かなりの誤解を生じさせるのではないかと思います。
そもそも、プロバイダ責任制限法については、平成23年に、日弁連が提言していることからも明らかなように、当時から、ずっと指摘されていながら、ほとんど手つかずのままに放置されていました。
今回、ようやく、見直しがなされることになりましが、私からすれば、「電話番号を追加」する程度で「大幅に簡素化される」などと言われてしまうことに対して、非常に腹立たしく思っています。
朝日新聞の記者の方がどのような取材をされたのかは分かりませんが、取材対象者(おそらく総務省の方だと思いますが)が、「電話番号を開示対象に含める方針は、総務省としても英断だ。これからは、発信者の特定が大幅に簡素化されると思う。」とでも仰ったのを、そのまま掲載されたのではないかと思わざるを得ません。
記者の方には、きちんと検証していただいて、「改正を阻もうとする総務省の勢力」に利用されないようにして頂きたいと思います。