湘南平塚事務所弁護士の最所です。
ツイッターに投稿した写真を勝手に使用されたことに対して、新潟地裁が肖像権侵害を認めたとの報道がなされております。
プロバイダ側は、「家族も写真をネット上に掲載していた」ことを理由として、肖像権侵害にはあたらないと主張していたようです。
このような主張は良くなされますが、果たして、一度自らがネット上に掲載することを認めた以上は、何らの制限もなく、勝手に自らの肖像が使用されることを許容しなければならない理由はあるのでしょうか。
この点、従来から、裁判所での審尋の場において、裁判官より、プライバシー権に関して、「自ら公開したしたのだから、プライバシー権を『放棄』したのではないか」との指摘を受けることが、多々ありました。このような指摘がなされることからも、インターネット上に、自らの意思で投稿したという理由で、権利侵害(プライバシー権等)が認められないと考えている裁判官も、少なからず存在しているようです。
そのような実態からすると、自らの意思で公開したことによって、自らの肖像権を「放棄」したとの趣旨の主張がなされたのかも知れません。
しかしながら、本判決では、「たとえ家族がネットに写真を掲載していたとしても、不特定多数への公開を黙認しているものではない」との判断がなされていることからすると、少なくとも、インターネット上に、公開することを承諾したからと言って、それが直ちに、肖像権を「放棄」したことにはならないとの判断を、ある種、当然の前提としているとも思えます。
実際のところ、インターネット上に写真を投稿する人の通常の意思としても、自らが投稿した範囲において不特定の人が閲覧するであろうことには、許容するけれども、その範囲を超え、無制限に拡散することまでは、許容していないというのが一般だと思います。
その意味でも、本判決が肖像権侵害を認めたことは、インターネット利用者の通常の意思にも合致するものといえるのではないでしょうか。
私も所属しておりますプロバイダ責任制限法実務研究会が、先日、出版致しました「プロバイダ責任制限法判例集」(LABO)では、プライバシー権に関して、被害者の同意という構成を主張しています。
ここでは、「特定の媒体において、自己のプライバシー権に属する事項について公開することに同意した場合、それは、あくまでも、本来違法となるはずのプライバシー権侵害について、法益の保護主体が「同意」したに過ぎない(「同意」である以上、同意の範囲(公開の範囲)を限定することは可能であるし、公開に条件を付けることも可能である。)。すなわち、法的構成としては「被害者の同意」によって、違法性が阻却されるという関係に立つのである。そのため、法益の保護主体が「同意」した範囲を超えて公開されれば、当然に違法となりうる。」(上記書籍165頁から166頁)との説明を行っています。
参考となる裁判例として、会社の代表取締役の住所が登記事項であることを理由に、プライバシー権の侵害がないと主張したことに対し、「私的情報につき登記簿その他で探知しうる手段が存在するからといって、これをもってそのような私的情報が一般人に広く知られているとはいえない」(東京地判平成19年6月4日)とした事例や自らが提起した訴訟の判決文をブログに掲載し、判決文に掲載されていた相手方当事者の住所を公開したことについて、不法行為の成立を認めた事例(東京地判平成23年8月29日)等があります(上記書籍174頁、175頁)。
肖像権にせよ、プライバシー権にせよ、自らが投稿を行った、または、公開に同意したとしても、それは、その範囲または同意が合理的に推定される範囲内で、公開に同意したに過ぎず、その範囲を超えた場合には、当然に違法となると考えるべきであると思います。