弁護士の最所です。
リベンジポルノ法(「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」)が、先月参議院で可決、成立しました。この法律の意義については、先日、弁護士ドットコムの取材に回答する形で、お話させていただいておりましたが、今回、私の方でも、まとめてみることにいたします。
従来、このような卑劣な行為を処罰しようとすれば、撮影対象者が18歳未満であれば、『児童ポルノ法』によって、18歳以上の場合は、『わいせつ物頒布罪』や『名誉毀損罪』といった犯罪に該当することを理由に、刑事事件化して対処していました。
しかしながら、『わいせつ物頒布罪』が犯罪とされた理由が、社会秩序の維持をはかる目的にある以上、取り締まるべき行為は、誰が見てもわいせつな画像であると思われるようなもの、一般的には、性器が写っているか否かが一つの判断基準にならざるをえません。
この場合、性器そのものが写っていないケース、例えば、モザイクをかけていたような場合(一般的に販売されているAV作品等)であれば、『わいせつ物頒布罪』での立件は困難です。『児童ポルノ法』であれば、『わいせつ物頒布罪』よりは、処罰の対象を広げることはできると思いますが、その場合でも、撮影対象者が18歳未満の場合に限られてしまいます。
現実的に対応しようとすれば、『名誉毀損罪』で対処することになるでしょう。ただ、『名誉毀損罪』で対処しようとした場合、撮影対象者の名前(伏せ字も含む)や、対象者が不特定多数の異性と交際しているかのようなフレーズが記載されているようなケースであれば、警察も名誉毀損として扱い易かったのですが、単に画像のみが拡散しているケースでは、実際のところ、警察もなかなか取り扱ってくれなかったというのが実状です。
もちろん、画像のみの拡散の場合であっても、画像の内容によっては、そのような写真を撮らせるような人物であるという事実が摘示されたものとして、名誉毀損行為と判断することはできましたし、裁判所の認定においても、名誉毀損行為と認めたものもあります。
ただ、どのような写真であれば、その人の社会的評価を低下させるものであるかという、実質的な判断が必要になりますし、そのような実質的判断を現場の警察官に求めることは、現実には困難です。
警察官としても、これは『名誉毀損罪』に該当すると自信をもって言えるようなものでなければ、なかなか、刑事事件として取り扱うことは難しかったのではないでしょうか。
今回の法案に関する委員会において、平沢勝栄氏は、「既存の法律では必ずしもカバーできないところが、例えば名誉毀損とかあるいはわいせつ物頒布罪等ではカバーできないところを埋めるのが今回の目的」であると説明しています。今回、法律が制定されたことによって、刑事事件化できる範囲が広がり、現場の警察官も、被害者の意向を汲んで対処することができるようになることも期待できると思います。
ただ、今回の法律の条文を見ても、対象となる画像が「性交又は性交類似行為」「性器等を触る行為」「性的部位が露出」しているものに限定されています。この文言からすると、例えば、下着姿の画像の場合は、性的部位を強調するような下着であれば、対象となるのかもしれませんが、一般的には困難だと思います。
今回の法律については、附則に3年後の見直しの規定が置かれています。今後の被害の実態や法律の運用の状況を踏まえながら、被害者救済に資する有効な対策を講じることができるように、進んで見直していただきたいと思っています。
とはいえ、今までであれば、単にプライバシー権侵害に過ぎないとして、現場の警察官が二の足を踏んでいたようなケースの場合であっても、一定程度刑事事件化できるようになったという点が、今回の法律の最大のメリットではないでしょうか。